【こんな症例も治りますシリーズ 614】 『 犬の筋皮弁皮膚形成術を用いたヒザの上側の肥満細胞腫 』も 適切な診断と治療で治します

↑ 上の写真は、膝の上側にある肥満細胞腫です。
・
■ 肥満細胞腫は悪性腫瘍ですが、悪性度によってグレードに分かれます
・
■ 最悪のグレード3の可能性がある肥満細胞腫では、CT検査での造影検査が『 内蔵への転移や、皮下への浸潤発見 』の有効な診断方法の一つです。
参照サイト:
https://00m.in/dHkEc
犬 柴犬 8歳 メス(避妊手術済み)
【 かかりつけ医で、右の膝の上側に肥満細胞腫というシコリを診断されたけど、手術が出来ないほど急激に大きくなってきている 】という事で来院されました。
◆◆ 診察させていただくと、たしかに、直径2センチ大の赤みを帯びたシコリが右膝の上側にありました。
■ お話をうかがうと、1か月前にトリミングに行ったら、トリマーさんから『 ここにイボみたいなのが、ありましたよ 』と言われたので、右ヒザを触ってみたら5mm位の小さなシコリがありました、との事でした。
■ 自宅で様子を見ていたら、見る見るうちにシコリが大きくなったので、かかりつけ医に診てもらいに行ったそうです。
■ 飼主様いわく、『 かかりつけ医には針を指して診断してもらったのですが、顕微鏡でその細胞を見た途端に、“肥満細胞腫”というシコリですが、急激に大きくなっているのでリスクが高い部類に入るし、皮膚も筋肉も大きく切らないといけない手術になるので、自分では手術出来ない。 大きな病院に行くか行かないか、家族で考えてきて下さい。 紹介状を書きますから。 』と言われたそうです。
◆◆ 自分達で考えるのは難しいので、セカンドオピニオン診療を求めて当院に来られた、との事でした。
■ 当院での所見は、肥満細胞腫であっても、ダリエ徴候という腫瘍の周囲に赤色の帯状の症状が見られない事、胃腸障害の症状も無いことから、全身の精査を行って、なるべく早く手術をしてあげられるかを検討しました。
■ 血液検査、画像診断などのスクリーニング検査を実施して、肥満細胞腫の精密検査としては、全身の血液の中に播種(転移)していないかの検査など、専門医による細胞診検査依頼も行いました。
★★★ 結論から申し上げますと、暫定診断ではありますが、『 当院で手術が出来る肥満細胞腫 』でありました。
■■ 手術計画ですが、肥満細胞腫の場合、シコリの周囲の辺縁から3センチ離れた部分まで切り取らないといけません。 また、腫瘍の下の筋膜を1枚切り取る必要があります。
※ これは、肥満細胞腫の悪性細胞が、シコリだけでなく周囲まで浸潤して『 ヒトデのように広がって 』、広範囲に悪性細胞が拡がっている事が多い腫瘍だからです。
※ すなわち、今回は直径8センチの円状の切開部を作り出す手術になります。
■ しかし、大きく切り取った欠損部が残りますので、手術の後に起こるであろう併発症を考えて、今回は有茎皮弁という『 フラップ形成術 』を行って、犬の右側の乳腺部分から皮膚と血管を大きく移動させる『フラップ転位術』を実施しました。(下のイラストを参照されて下さい)
※ ここで重要なポイントは、長軸方向が長いフラップ形成ですので、太い血管がフラップ内に含まれている事が『 キーポイント 』になると思います。

↑ 上のイラストは、犬の乳腺を『フラップ形成』して、どの部位にそのフラップを移動できるのかを示した絵です。
・
■ 長軸方向が長いフラップなので、『 豊富な血液循環がある皮弁形成 』が成功のポイントです。
参照サイト:
https://00m.in/pJGkh
■ この『フラップ形成転位術』は、手術部位の皮膚から張力を減らす事が出来て、皮膚にゆとりが生まれるので、大きな利点が出来ます。
※ 体重が10kgの柴犬ですから、直径8センチの欠損部を周囲の皮膚を伸展術というテクニックを使って形成外科する事は可能と思われるのですが、しかし、手術部位は動きの激しいヒザの上側(大腿部側)という性格上、縫合部位の離開という手術失敗のリスクを避けるため、筋皮弁皮膚形成術(有茎皮弁転位術)を行う事にしました。
◆◆ 手術は計画通りに上手く出来て、術後管理も予測していた併発症が出ないで、成功致しました。
■ 病理組織診断は、『 肥満細胞腫 グレード2 』という診断でした。 領域リンパ節にも悪性細胞の転移はありませんでした。
※ 本当にラッキーなワンちゃんです。 手術前のシコリの急激な増大傾向からみても、最悪の肥満細胞腫グレード3という手を出してはいけない『 怖い怖いステージ 』を疑いましたが、事前に行った検査から『 全身転移 』の疑いが無いと判断を致しました。
■ 丁寧に行った術前検査結果と、術後の病理組織検査結果(肥満細胞腫 グレード2)が一致した、良い症例でした。
■ 何かお役に立てることがありましたら、ご連絡ください。
獣医師 高橋 俊一
046-274-7662
photo.fahtakahashi@gmail.com
< 前の記事へ 次の記事へ >